グラフで見るアフリカ域内スタートアップ市場の実態
「アフリカ市場は盛り上がっている」とよく耳にすることが、最近になって増えてきていないだろうか?爆発的な人口増加。そしてそれに伴う経済成長率。確かにこれらを見れば、アフリカは注目されるべき存在であるのは確かだ。
日本人にとって、アフリカはまだまだ身近ではないので、アフリカ市場の実態を知るきっかけもなければ、情報も少ない。
そのため、経済成長率などのマクロなデータでアフリカが盛り上がっているという認識になってしまう。
今回はそんなアフリカの内情を掘り下げ、「アフリカのスタートアップ市場」という少しミクロな視点でアフリカ市場の盛り上がりについて考えてみたい。
アフリカの資金調達額は他国と比べてどうなのか
2015年のDisrupt Africaの調査によると、2015年のアフリカのスタートアップは総資金調達額は185億円と発表している。
しかし、2016年のアフリカのスタートアップの総資金調達額は約129億円と2015年の総資金調達額と比べると減少した。
アフリカ以外の他の地域を見てみると、アフリカ大陸内における資金調達額がどれだけ少ないのかは一目瞭然だ。
アフリカの2015年の総資金調達額である185億円に対して、インドの2015年の総資金調達額は9000億円と桁違いの調達額の差がある。インドは別格としても、東南アジアの1600億円、日本の1716億円と比べても明らかに少ない。
一方で、アフリカ大陸と、日本の一社当たりの平均資金調達額をみると、アフリカの一社平均の資金調達額は8000万円で、日本(スタートアップ数は1192社)の平均調達額は1億4300万円と、一社平均でみれば、アフリカの8000万円は高いようにも見える。
ただ、正直、2015年と比べて、アフリカのスタートアップの総資金調達額は落ち込んでおり、アフリカのスタートアップ市場は数字的には盛り上がっているとは断言できない状態となっているのが現状である。
実際にアフリカの市場は本当に盛り上がっているのか?本記事では3つの視点から考える。
1.充実したテックハブの数、サポート体制
アフリカのテックハブに関しては多くの議論が行われており、それらが過大評価されているという状況もある。しかし、それらのハブの数とサポートの質の高さがアフリカのスタートアップの発展に貢献しているということは間違いなく言えるだろう。注目されている3国、南アフリカ、ナイジェリア、ケニアはもちろんのこと、ガーナ、カメルーン、ザンビアなど各地にスタートアップを支援する体制が整えられ始めている。
上記は、アフリカのテックハブの数をインフォグラフィックでまとめられたものである。南アフリカは55拠点、エジプトの28拠点、ケニアの27拠点、ナイジェリア23拠点と、それぞれ南は南アフリカ、東はケニア、西はナイジェリアが中心となって近隣国のスタートアップエコシステムにも影響を与えている。
北アフリカ地域に関してはエジプト、チュニジア、モロッコとそれぞれの国が独立してエコシステムを構築しているという印象だ。
徐々に、「何かの課題を解決したい」と考える人達のための土壌が立ち上がってきている。
実際、Facebook創業者のマークザッカバーグ氏のインターネットの無料配信プロジェクトや、先日発表されたばかりのAlibaba創業者のジャック・マー氏が若い企業家向けの10億円ファンドを立ち上げると発表したように、アフリカ域内のスタートアップにとってのサポート体制に拍車がかかっている。
また、先日親会社であるAlphabetの役員に抜擢されたGoogleのCEOであるSundar Pichai氏もお忍びでナイジェリアに訪問していたことが明らかになっている。
Thrilled that we're expanding our digital skills program to train 10M Africans over the next 5 years #GoogleforNigeriapic.twitter.com/csc3WM8tSR
— Sundar Pichai (@sundarpichai) 2017年7月27日
今後も世界各国の有名な起業家達の注目もあり、アフリカスタートアップ市場がこれからさらに勢いを見せ始めるのではないかと考える。
2.成長を続ける人口とインターネット普及率
We are socialのグラフによるとアフリカのインターネット普及率は、アフリカの人口約12億円の内、インターネットユーザーは約3億6000万人と全体の30%弱となっており、まだまだ高い数字であるとは言えない状況である。
逆にいえば、アフリカ大陸内でまだインターネットに接続できていない人口が約9億人いるということができる。国によって、インターネットの接続状況にかなりのばらつきがあるのが現状ではあるが、インターネット系企業にとって、まだまだ潜在的なマーケットが存在していると言うことができる。
ではさらに、現在エコシステムが確立されつつある国のインターネット接続状況をみてみよう。
南アフリカ
南アフリカは人口が5500万人おり、そのうち約52%の2800万人がインターネットユーザである。インフラ面においてもアフリカ各国と比べて、整った印象を持つ国ではあったが、インターネット接続率で言えば半数程度とインターネット普及率は高いとは言えない数値となっている。
ケニア
ケニアは人口が4700万人あり、インターネット人口も半数以上の67%とインターネット接続率がとても高いのが特徴である。現在、ケニアには多くのテクノロジー企業が進出しており、世界各地から起業家が集まってくる、スタートアップに対するエコシステムが整った国であるとも言うことができる。
ナイジェリア
ナイジェリアの人口は1億8000万人とアフリカ内で一番人口の多い国である。インターネットの接続人口も約半数の51%で9700万人とかなり多い。ナイジェリア一国で現在のアフリカのインターネット接続人口の約3分の1を占めているのだから相当の数のインターネットユーザーを抱えているということがこのレポートから読み取れる。
エジプト
エジプトの人口は9400万人と多い。そのうち37%の3500万人がインターネットユーザーである。エコシステムが確立しつつある国の中では、比較的インターネットユーザーがそれほど多くないということをこのレポートは示している。
上記スタートアップエコシステムが充実しつつある上記4国において、最もネット普及率が高いのがケニアで、その後に南アフリカ、ナイジェリア、エジプトと続く形となっている。
これらの国々だけで、アフリカのインターネットユーザーの半数以上を占めているということが分かる。
3.やっぱり最後のフロンティアのリターンは大きい説
先進国では、ほとんど皆が当たり前のようにスマートフォンを持っていたり、オンラインで、チャットをしたり、オンデマンドサービスや、動画視聴、ゲームなどスマートフォンの利用方法は人それぞれだ。
また、何か必要なものがあれば、オンライン上で数タップで商品を購入することもできれば、家から数分歩いたところにあるコンビニで買い物を済ませることもできる。
しかし、アフリカにおいては、まだスマホを持つことができず、インターネットに接続できていない人が約9億人もいるのだ。
確かに、まだまだ貧困の問題があり、すぐにスマホを所持できるようになる段階ではないかもしれないが、それでもまだ眠っている9億人の市場があることは事実なのだ。
彼らの多くは銀行口座を持つことができず、基本的なファイナンシャルサービスにもアクセスできていない状況がある。
そのような状況を打破しようと、ケニアではM-Pesaと呼ばれる電話回線を利用した少額のお金の送金サービスのような低所得者や銀行口座を持つことができない人向けのサービスも出てきている。
また、小さな商店を営む店主や中小企業向けに少額のお金を貸し出し、その返済率や返済回数に応じてその人のクレジットスコアを可視化するサービスを提供するスタートアップが出てきている。
実際、2015年に行われたアフリカのスタートアップの185億円の資金調達額の内、約30%にあたる55億円はフィンテックスタートアップによるものであった。
基本的なファイナンシャルサービスにおけるニーズがかなり高いことがこの調達額からもお分かりいただけるであろう。
アフリカでは、そもそも生活に必ず必要なサービスがまだ整っていないということもあり、人間が基本的に必要なニーズを満たすサービスは急成長する市場であることは間違いない。
彼らがインターネットにアクセスできるような仕組みが整うことによってスタートアップの爆発的な成長、また投資家にとっては多くのリターンを得ることができることを意味する。
実際、MicrosoftやGoogle、Facebookのような企業は、アフリカの若者の学習支援であったり、プログラミングの学習サポートをおこなうようなプロジェクトを実施している。
彼らはすでに潜在的に伸びるといわれる市場に早くから参入しようとしているのだ。
まだ、アフリカ市場は実態として伸びていると言うことはできないが、その潜在的伸び率が高いのは間違いない。
最後に
このアフリカという潜在的なマーケットに対しての注目が集まり、アフリカ市場は盛り上がっているといわれているのではないであろうか。実際は、「アフリカ市場はこれから必ず盛り上がっていく」という認識の方が正しいのかもしれない。
VC4Aがアフリカの1866社ものスタートアップに実施した調査によると、内71%のスタートアップは収益化に成功しているという。またそのうち23%は50000USドル以上の収益化に成功しているという。
格安スマホの登場によって、アフリカ大陸各国で急速に広まりつつあるインターネット。これらのおかげで、このインターネットの力を使って、潜在的に抱えている問題を解決しようと考えるアフリカの若手企業家、スタートアップが増えてきているのは確かである。上記で述べたように、そのほとんどが収益化に成功している。
それらの状況に合わせて整いつつあるサポート体制や、各国実業家によるファンド設立によって、今後もビジネスで国をよくしていこうという流れは減ることはないだろう。
スタートアップに対するサポート体制が整う中で、アフリカの経済成長を支えるスタートアップがたくさん出てくることを今後も期待したい。
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