前年比1500%成長!ケニアの農産業分野で奮闘する28歳の日本人起業家
ケニアの農産業市場は3兆円と言われており、とても大きい市場だ。
そのうえ、まだまだ課題が多く、ビジネスとしてつけ入る隙はたくさんある。
ケニアの農産業分野にたった一人で参入し、野菜の卸売り事業を立ち上げた20代の日本人起業家がいる。
「10年後は営業利益1000万米ドル(約10億円)を達成する」と壮大な目標を掲げている。
今回インタビューするのはAmoebaX社の河野邦彦さんだ。
河野さんのTwitterはコチラ
ケニアでの会社の立ち上げから今後について話を聞いた。
河野さんは27歳の時に初めてケニアを訪問した。その後、ケニアでAmoebaX社を設立し、現在、その会社で「YasaFi」というサービスネームでケニアのストリートベンダー向けに赤玉ねぎの卸売り販売を行っている。
AmoebaX社は、2018年5月で創業から一周年を迎え、立ち上げ当初、河野さんを含め正社員2名だった頃から急速に成長し、今や正社員数は18名、日雇いの従業員も含めると40名を超える大所帯となった。
河野邦彦 1990年生まれ
大学卒業後、大手上場企業で営業、採用担当者を経て、インドでの語学学校の立ち上げに参画。その後、フィリピンのスタートアップYOYO Holdings.にて採用責任者として従事。ベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国での採用業務を1人で行う。2017年2月からアフリカケニアで起業。アフリカにおける農産業の課題を解決し続ける持続可能なコングロマリットを目指している。REAPRAから出資を受け、起業するに至った。
当初、アジアで起業しようと考えていた河野さんは、友人のある一言でケニアに来ることになった。
「邦彦は次はアフリカでしょー!」
河野さんは友人の一言がきっかけでアフリカを意識するようになった。
「アフリカ全域のリサーチをしましたが、人口、GDP、インターネット普及率、投資実績等の数字と成長率を見て、最終的にはナイジェリアかケニアで迷いました。ただ、ナイジェリアはすでに※ロケットインターネットが数十億単位で出資しているところが数社あり、そこで小資本で勝ち抜くのは難しいので、エントリーポイントとしては適切ではないと判断しました。」
※ロケットインターネットはドイツ拠点のインキュベーター。シリコンバレーで流行したアイデアやビジネスモデルをそのままコピーしたクローンサービスをヨーロッパや東南アジア等で展開し、それらのサービスを売却し利益をあげるというビジネスモデルをとっている。アフリカではナイジェリアでAmazonのモデルをコピーしたEコマース事業を展開している。
アフリカ全域のリサーチを通して、最終的にはケニアで起業すると決めた。
本当にアフリカに行くことになった。
東南アジアを中心に投資を行っているREAPRAという会社の傘下で現地法人社長をしていた友人に紹介してもらい、REAPRAから投資してもらうことも決まった。
彼がケニアで挑戦する事業とは
河野さんがケニアで創業したAmoebaXでは、「YasaFi」というサービスネームで赤玉ねぎの卸売り販売を行なっている。
ケニアに来る前に、現地の従業員を雇い、日本から遠隔でスカイプミーティング、調査を重ねていた。
現地の社員と一緒に事業アイデアを探していく過程で、ケニアの農産業分野の大きさに気づいた。
河野さんは、数ある農産物の中でも「赤玉ねぎ」に目をつけた。
農産物の中でも赤玉ねぎはケニアの中で消費量は1,2を争う品目であり、商材として扱う上で常温保存がきくため、とても扱いやすい。
そのうえ消費ニーズもあることから、赤玉ねぎの卸売り販売を行うことに決めた。
赤玉ねぎの卸売り販売に目をつけた河野さんは、実際にケニアに飛び、1週間の滞在の内に農家から赤玉ねぎを2トン分購入し、それをストリートベンダー(路上で農産物を販売しているおばちゃん)に販売してみた。
「お金のやりとりの無いヒアリングでは彼らの本音に迫れないと思ったので、たった1週間の滞在でも、購入から販売までを行って検証したかったんです。」
たった1週間の滞在で、現地のマーケット調査、販売をすべて自分で行い、市場の規模感や課題をデータからだけでなく、体感として知ることができた。
「例えばこんな課題があります」と話してくれた。
・生鮮食品の流通において、中間マージンを大きく取るブローカーが多くいること。
・プロ―カーは利幅が大きくとれることもあり、ほとんどが個人で活動しており、組織化されていない。
・農家やメインの顧客であるストリードベンダーがトラック等への投資ができないため、ブローカーとの交渉では足元を見られて適正価格での取引ができていない。
・ブローカーは食料用の倉庫をもっていなく卸売マーケットでのトラックからの売り切りのスタイルが主流なため、農家からの価格の変動を受けやすい。
・小売店まで直接配送するサービスがないこと。卸売マーケットまでいかなければ値段も品質もわからない。
多くの課題を見つけることができ、この市場でサービスをする意味はあると確信した。
課題があり、市場規模は大きいと分かっていても、実際に始めてみないと深く市場を理解できない。
河野さんは、全くの異国の地「ケニア」で、新卒で入社したケニア人従業員とたった二人で赤玉ねぎの卸売り事業を立ち上げた。
「日本でも海外でも自分で立ち上げを行ったことはなかったので、ケニアでの立ち上げ当初はこんなもんかという感じだった。」
立ち上げ時の様子をさらっと話す河野さんには驚きだ。
たった一日で10トンもの赤玉ねぎを販売
「ストリードベンダーが卸売りマーケットまで行く手間を省いてあげて、高品質の赤玉ねぎをストリートベンダーが実際に販売しているマーケットまで配送してあげるのが我々のサービスなんです。」
毎朝7時半に5台のトラックが会社の倉庫まで来て、そのトラックに赤玉ねぎを積み込む。
従業員はドライバーと一緒にローカルマーケットまで行き、赤玉ねぎをストリートベンダーに直接販売している。
通常、ケニアにいるストリートベンダーは、野菜の卸売りマーケットまで毎朝足を運び、野菜を購入している。
しかも、そこから自分の屋台があるマーケットまで野菜を頭に担いで持って帰っている。
問題は、ストリートベンダーは卸売りのマーケットに行くまで野菜の品質も価格も確認できないことだ。
卸売りマーケットにいるブローカーに価格を吊り上げられ、その日に野菜を買えないことだってある。
ストリートベンダーの課題を理解し、それを解決しているのがAmoebaX社のサービス「YasaFi」なのだ。
2018年5月現在では、毎日10トンもの赤玉ねぎをストリートベンダーに販売している。
トラックに満タンに積み込んだ赤玉ねぎはたったの一日で売り切れてしまうのだから驚きだ。
毎日同じ時間帯にマーケットまで赤玉ねぎを配送
従業員は、毎朝前日に決めたルートでそれぞれのマーケットを回り、赤玉ねぎを量り売りで販売する。
マーケットにつくと、トラックの周りにストリートベンダーが集まり、一人づつ販売対応を行う。
1台のトラックは平均して5つ前後のマーケットを回る。
「例えば、「Kangemi(カンゲミ)」というマーケットでは、毎週火曜日と木曜日がマーケットデイと言われていて、早朝に各地から野菜の卸売りのブローカーがそのマーケットに集まるんです。そのタイミングでストリードベンダーが大量に野菜を購入するので、それに合わせて我々も赤玉ねぎを販売しています。」
マーケット毎に社内で情報を整理して、適した曜日、時間帯に赤玉ねぎを配送している。
この曜日の、この時間にYasaFiの配送トラックが来ると認識させることで、ストリートベンダーが卸売りマーケットや他社から赤玉ねぎを買ってしまうのを防いでいる。
それらに加え、SMS (携帯電話のテキストメッセージ) で販売価格についての情報を提供したり、SMSもしくは電話で前もってオーダーを取っている。
今では、ナイロビ市内のほぼすべてのストリートベンダーに認知されており、少しでも配送時間が遅れると「まだなのですか?」と連絡がくるくらいストリートベンダーにとってインフラ化されたサービスとなっている。
たった創業1年で、彼らにとってなくてはならない存在となった玉ねぎの卸売り販売サービス「YasaFi」。
自分の足を使った市場理解とシンプルな課題解決策を提示した河野さんの手腕によるものだろう。
Facebookをうまく活用し、ケニア全土の農家とコミニケーション
AmoebaX社では、ストリートベンダーが納得する良質な赤玉ねぎを買い付けるために、SNSを効果的に活用している。
「赤玉ねぎを生産している農家に幅広くリーチするために自社のFacebookページを開設して、そこで我々が行っている事業、買い付けを行っている旨を毎日投稿しています。」
ケニア人はSNSの利用率が高く、特にFacebookの利用がアクティブだ。
そこに目をつけ、Facebookページ運用を始めたところ、その戦略が見事にはまった。
YasaFiのFacebookページはコチラ
FBページにはかなりのお問い合わせ、コメントがあり、オフィスにいると農家からの電話が鳴りやまない。
FBページからコメント、お問い合わせを頂いた農家には、収穫した赤玉ねぎの写真を送ってもらい、実際に農場まで訪問するかのスクリーニングを行っている。
農家から送られてくる写真からおおよその品質を確認し、自社の品質基準を満たしていれば、実際に農場まで訪問し、最終品質確認を行っている。
サービス立ち上げから1年で、約1000以上の農家に訪問し、農家開拓も順調に進んでいる。
それだけでなく、厳しいストリートベンダーの品質基準を満たすために、買い付けチームの組織化と社員教育を徹底している。
社員それぞれにも赤玉ねぎの品質についてのレクチャーをしたのち、ジョブローテーション(販売経験を先にさせて顧客が求めている品質を理解する)を経て、買い付けチームに異動させている。
取り扱う赤玉ねぎの品質には一切の妥協を許さない。
AmoebaX社の今後のプランと2027年までのビジョン
「会社のミッションが「アフリカにおける農産業の課題を解決し続ける持続可能なコングロマリットを目指す」なので、農産業を起点として様々な事業の立ち上げをアフリカ各地で行なっていきたいと思っています。また、2027年のビジョンとして営業利益約10億円を掲げています。」
河野さんの会社のビジョンを達成するために、アフリカの主要国でのサービス展開は必須だ。
進出難易度と市場規模の兼ね合いで東アフリカ(タンンザニア、ルワンダ、ウガンダ)は3年以内に、南アフリカ、ナイジェリアには5年以内に進出を予定している。
事業拡大に向けてボードメンバーも募集している。CxO候補を直近1年で複数名採用する予定とのことだ。
直近の計画では以下3つを始める予定で動き出している。
1. 赤玉ねぎ以外の品目の増加
2. 自社農家
3. ストリートベンダーのフランチャイズ化、自社青果店
10年後の営業利益約10億円に向けて、既存事業は基本的には社員にまかせることができる体制を整え、どんどん既存事業から手を放していっている河野さん。
日本で営業利益10億円の会社は、エバラ食品やタマホームなどが当てはまる。どれも名の知れた会社だ。
今後十年でアフリカ内でその規模まで会社を成長させていく。
玉ねぎの卸売り事業では、ケニア人新卒社員と2人での立ち上げではあったが、今は社員も18名までに増え、支えてくれる仲間はたくさんいる。
目標から逆算して、打つべき手を明らかにし、上記新規事業を立ち上げなければならないとわかっている今、ゼロベースからの立ち上げの日々が始まる。